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花粉症とは
花粉症は、正式には「季節性アレルギー性鼻炎」と呼ばれる疾患です。特定の季節に飛散する花粉によって引き起こされるアレルギー反応のことを指します。主にスギやヒノキなどの花粉が原因となり、鼻や目の粘膜に症状が現れます。主な症状には、以下の4つがあります:
- くしゃみ
- 鼻水
- 鼻づまり
- 目のかゆみ
これらは「花粉症の4大症状」と呼ばれ、花粉が飛散する時期に集中して現れます。
花粉症の疫学
花粉症は、日本において非常に一般的な疾患となっています。最近の調査によると、日本人の約4割がスギ花粉症に罹患していると推定されています。この数字は、20年前と比べて約2.5倍に増加しており、まさに国民病と呼べる状況です。若年層から中年層まで幅広い年齢層で見られ、特に10代から50代の方々で有病率が高くなっています。
花粉症のメカニズム
花粉症は、体が花粉を「敵」と誤認識することで起こるアレルギー反応です。そのプロセスは以下の通りです:
- 花粉が鼻や目の粘膜に付着
- 体内で花粉に対するIgE抗体が作られる(感作)
- 再び花粉に曝露されると、IgE抗体と結合した肥満細胞が活性化
- 活性化された肥満細胞からヒスタミンなどの化学物質が放出
- これらの化学物質が神経を刺激し、症状を引き起こす
花粉症の治療法
花粉症の治療には、主に薬物療法が用いられます。症状の程度や生活スタイルに合わせて、適切な治療法を選択することが重要です。
1. 経口薬(飲み薬)
抗ヒスタミン薬
第二世代抗ヒスタミン薬は、眠気の副作用が少なく、花粉症治療の中心的な薬剤です。近年、さらに改良された新しいタイプの抗ヒスタミン薬が登場しています。
- ザイザル®(レボセチリジン):2010年発売。効果の持続時間が長く、血液脳関門の通過性が低いため、中枢への影響が少ないとされています。
- ディレグラ®(フェキソフェナジン・プソイドエフェドリン配合):2013年発売。鼻閉に対する効果を増強する作用があり、特に鼻づまりが強い患者さんに効果的です。
- デザレックス®(デスロラタジン):2016年発売。クラリチン®の代謝活性物質で、効果がすみやかに発現する特徴があります。
- ビラノア®(ビラスチン):2016年発売。24時間持続する非鎮静性の抗ヒスタミン薬で、眠気が少ないのが特徴です。
- ルパフィン®(ルパタジン):2017年発売。抗ヒスタミン作用と抗PAF作用を併せ持つ特徴があります。
抗ロイコトリエン薬
- シングレア®、キプレス®(一般名:モンテルカスト)
- 作用機序: ロイコトリエン受容体拮抗薬として働き、気道の炎症を抑制します。
- 効果: 主に鼻づまりに効果がありますが、くしゃみや鼻水にも一定の効果を示します。
- 用法: 通常、1日1回就寝前に服用します。
- 特徴: 気管支喘息の治療薬としても使用され、花粉症と喘息を併せ持つ患者さんに有用です。
- 副作用: 頭痛、腹痛、口渇などが報告されていますが、比較的少ないです。
- オノン®(一般名:プランルカスト)
- 作用機序: モンテルカストと同様にロイコトリエン受容体拮抗薬として働きます。
- 効果: 鼻づまり、くしゃみ、鼻水に効果があります。
- 用法: 通常、1日2回朝夕に服用します。
- 特徴: 気管支喘息やアトピー性皮膚炎の治療にも使用されます。
- 副作用: 胃部不快感、眠気、肝機能障害などが報告されていますが、頻度は低いです。
化学伝達物質遊離抑制薬
- インタール®(一般名:クロモグリク酸ナトリウム)
- 作用機序: 肥満細胞からのヒスタミンなどの化学伝達物質の遊離を抑制します。
- 効果: くしゃみ、鼻水、鼻づまりに効果があります。
- 用法: 点鼻薬として1日4回使用します。点眼薬や吸入薬としても使用可能です。
- 特徴: 副作用が少なく、妊婦や小児にも使用可能です。
- 副作用: まれに鼻内刺激感や鼻出血が起こることがあります。
- リザベン®(一般名:トラニラスト)
- 作用機序: 肥満細胞からの化学伝達物質の遊離を抑制し、さらに好酸球の活性化も抑えます。
- 効果: くしゃみ、鼻水、鼻づまりに効果があります。
- 用法: 通常、1日3回服用します。
- 特徴: アレルギー性鼻炎だけでなく、気管支喘息やアトピー性皮膚炎にも使用されます。
- 副作用: まれに肝機能障害、腎機能障害、膀胱炎様症状が報告されています。
- ペミラストン®(一般名:ペミロラストカリウム)
- 作用機序: 肥満細胞からの化学伝達物質の遊離を抑制します。
- 効果: くしゃみ、鼻水、鼻づまりに効果があります。
- 用法: 通常、1日2回朝夕に服用します。
- 特徴: 長期使用が可能で、予防的な使用にも適しています。
- 副作用: まれに胃部不快感、眠気、めまいなどが報告されています。
Th2サイトカイン阻害薬
- アイピーディ®(一般名:スプラタストトシル酸塩)
- この薬剤は、Th2サイトカイン阻害薬に分類されます。アレルギー反応に関与する免疫細胞(Th2細胞)の働きを抑制することで、アレルギー症状を軽減します。主に気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の治療に用いられます。副作用として、胃部不快感、嘔気、眠気などが報告されています。
2. 点鼻薬
鼻噴霧用ステロイド薬
- アラミスト®(フルチカゾンフランカルボン酸エステル)
- 鼻の症状全般(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)に効果があります。
- 1日1回の使用で効果が持続します。
- 主な副作用は鼻出血(7%)、鼻漏、鼻中隔潰瘍、頭痛(各2%)です。
- 長期使用が可能ですが、定期的な経過観察が必要です。
- ナゾネックス®(モメタゾンフランカルボン酸エステル水和物)
- くしゃみ、鼻水、鼻づまりに効果があります。
- 1日1回の使用で効果が持続します。
- 副作用として鼻出血、鼻症状(刺激感、疼痛、乾燥感)などがあります。
- 長期使用可能ですが、定期的な経過観察が必要です。
- エリザス®(デキサメタゾンシペシル酸エステル)
- 鼻の症状全般に効果があります。
- 1日1回の使用で効果が持続します。
- 副作用プロファイルは他のステロイド点鼻薬と同様です。
抗ヒスタミン点鼻薬
- アレジオン®点鼻液(エピナスチン塩酸塩)
- くしゃみや鼻水に特に効果があります。
- 1日2回の使用が一般的です。
- 眠気の副作用が少ないのが特徴です。
- リボスチン®点鼻液(レボカバスチン塩酸塩)
- くしゃみや鼻水に効果があります。
- 1日4回まで使用可能です。
- 局所的に作用するため、全身性の副作用が少ないのが特徴です。
3. 点眼薬
抗ヒスタミン点眼薬
- パタノール®(オロパタジン塩酸塩)
- 目のかゆみや充血を改善します。
- 1日4回まで使用可能です。
- 主な副作用は眼痛(2.4%)、角膜炎(0.8%)です。
- 抗アレルギー作用に加えて、抗炎症作用も持つのが特徴です。
- アレジオン®点眼液(エピナスチン塩酸塩)
- 目のかゆみや充血を改善します。
- 1日4回まで使用可能です。
- 点鼻液と同様に、眠気の副作用が少ないのが特徴です。
ステロイド点眼薬
- フルメトロン®(一般名:フルオロメトロン)
- ステロイド点眼薬の一種で、眼の炎症を抑える効果があります。アレルギー性結膜炎の重症例で使用されることがあります。長期使用により、緑内障や白内障のリスクが高まる可能性があるため、医師の指示に従って慎重に使用する必要があります。
新しいタイプの点眼薬
- ゼペリン®点眼液(一般名:アシタザノラスト水和物)
- アレルギー性結膜炎の治療に使用される新しいタイプの薬剤です。肥満細胞からの化学伝達物質の遊離を抑制することで、さまざまな種類のメディエーターに効果を発揮します。副作用は比較的少なく、主に眼刺激や眼痛などが報告されています。
4. アレルゲン免疫療法
舌下免疫療法
- シダキュア®スギ花粉舌下錠
- スギ花粉エキスを含む錠剤を毎日舌下で溶かすことで、徐々に体をスギ花粉に慣れさせていきます。3年以上の継続的な治療が必要ですが、根本的な改善が期待できます。副作用として口腔内の痒みや腫れなどが報告されていますが、多くの場合、時間とともに軽減します。
皮下免疫療法
- スギ花粉アレルゲンエキス「トリイ」
- 皮下免疫療法に使用される注射薬です。定期的にスギ花粉エキスを皮下注射することで、体の反応を徐々に弱めていきます。舌下免疫療法と同様に、3-5年の長期治療が必要です。注射部位の腫れや痒みなどの局所反応が起こることがありますが、重篤な副作用は稀です。
5. 生物学的製剤
- 抗IgE抗体療法(商品名:ゾレア®)
- 生物学的製剤の一種で、重症のスギ花粉症に対して使用される新しい治療法です。
- IgE抗体と結合してその働きを抑制することで、アレルギー反応を防ぎます。
- 2-4週間おきに皮下注射を行います。
- 主な副作用は注射部位の反応(発赤、腫れなど)ですが、まれにアナフィラキシーのリスクがあるため、注射後は一定時間の経過観察が必要です。
- 2020年より、重症・最重症のスギ花粉症に対して使用可能となりました。
- 12歳以上で体重が20~150kgの範囲の方が対象となります。
- 治療開始には事前の検査や診察が必要で、総IgE値とスギ特異的IgE値の測定が必要です。
薬物療法の選択と注意点
- 症状に合わせた選択:症状の種類や程度に応じて、適切な薬剤を選択します。
- 併用療法:経口薬と点鼻薬、点眼薬を組み合わせることで、より効果的な治療が可能です。
- 副作用への注意:特に抗ヒスタミン薬の眠気や、ステロイド薬の長期使用には注意が必要です。
- 早期治療の重要性:花粉の飛散が始まる前から治療を開始する「初期療法」が効果的です。
- 個別化治療:年齢、症状の程度、生活スタイルなどを考慮し、個々の患者さんに最適な治療法を選択します。
自己管理のポイント
薬物療法と併せて、以下の自己管理も重要です:
- 花粉情報をこまめにチェックする
- 外出時はマスクとメガネを着用する
- 帰宅後は手洗い、うがい、洗顔を行う
- 室内の換気に注意する
- 規則正しい生活を心がける
まとめ
花粉症は完全に治すことは難しいですが、適切な治療と自己管理で症状を大幅に軽減できます。当クリニックでは、症状に合わせた治療や薬の処方を行っております。快適な生活を取り戻すために、ぜひご相談ください。