脂質異常症について ~まずはリスクを知り、正しい治療を~
脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪といった脂質のバランスが崩れている状態を指します。この状態が続くと、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気のリスクが高まる可能性があります。ただし、脂質の数値だけですぐに治療が始まるわけではありません。病気のリスクを総合的に評価した上で、治療方針が決まります。
コレステロールの数値が高いだけで薬は始まりません
コレステロールの数値だけで薬が必要かどうかを決めることはありません。私たちの体には様々な個人差があり、数値が高くても病気のリスクが低い場合もあります。そのため、動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳梗塞)のリスクを総合的に評価することが重要です。
リスクをどう評価するの?
1. 重大な病気の既往があるかどうかを確認します
以下の病気を経験している方は、動脈硬化のリスクが高い「二次予防」として扱います:
- 心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患
- アテローム血栓性脳梗塞
2. 高リスク病態の有無を確認します
過去に上記の病気がない場合でも、以下に該当する場合は「高リスク」として治療が優先されます:
- 糖尿病
- 慢性腎臓病(CKD)
- 非心原性脳梗塞
- 末梢動脈疾患(PAD)
3. リスクスコアで10年間のリスクを評価します
これらに該当しない場合は、年齢や血圧、コレステロール値、喫煙歴などをもとに、「10年間で動脈硬化性疾患を発症するリスク」を数値化します。このリスクに応じて治療方針を決めます。
リスクに応じた治療方針
10年間のリスクがどのくらい高いかによって、治療の目標値が変わります:
リスクカテゴリー | 10年間の病気発症リスク | 薬を始める目安(LDLコレステロール) |
---|---|---|
低リスク | 2%未満 | 160 mg/dL以上 |
中リスク | 2~10%未満 | 140 mg/dL以上 |
高リスク | 10%以上 | 120 mg/dL以上 |
二次予防 | 病気の既往あり | 100 mg/dL未満 |
薬を使わない場合もあります
数値が少し高いだけの場合は、まず生活習慣の改善が基本となります。以下のような方法で、脂質の値を正常に保つことができます:
- 食事の見直し
野菜や魚を多く摂り、揚げ物や脂っこい肉を控えます。 - 運動習慣の定着
ウォーキングや軽いジョギングなどを週に3~5回行いましょう。 - 禁煙と節酒
喫煙は善玉コレステロールを低下させるため禁煙が推奨されます。
薬物治療が必要な場合の流れ
薬物治療が必要と判断された場合、以下のような薬が使われます:
- スタチン系薬
悪玉コレステロールを下げる薬です。心筋梗塞などのリスクが高い場合に使用されます。 - フィブラート系薬
中性脂肪が高い場合に適応されます。 - エゼチミブ
コレステロールの吸収を抑える薬です。 - PCSK9阻害薬
LDLコレステロールを劇的に下げる薬です。
薬物治療は、生活習慣の改善を補助する役割です。薬を飲み始めた後も、生活習慣の見直しは重要です。
最後に
脂質異常症の治療は「長期的な健康を守るための投資」です。血液検査で数値が高いと言われても、すぐに薬が必要なわけではありません。リスクを正しく評価し、生活習慣の改善から始めることが大切です。治療について疑問があれば、遠慮なくご相談ください。