便秘症の定義と治療方法
便秘症は、排便回数の減少や排便時の困難さを特徴とする症状です。一般的に、3日以上排便がない場合や、週に3回未満の排便しかない状態が続く場合を便秘と呼びます。
主な症状
- 排便回数の減少
- 硬い便
- 排便時のいきみ
- 残便感
- 腹部膨満感
- 腹痛
便秘症の原因
便秘症には様々な原因があります:
- 食事:食物繊維の摂取不足、水分摂取不足
- 運動不足
- ストレス
- 排便習慣の乱れ
- ホルモンバランスの変化(妊娠中や更年期など)
- 加齢による腸の機能低下
- 特定の疾患(甲状腺機能低下症、糖尿病など)
- 薬剤の副作用(鎮痛剤、抗うつ薬など)
便秘症の主な治療薬とその特徴
便秘症の治療には様々な薬剤が用いられています。それぞれの薬剤には特徴があり、患者さんの状態に合わせて選択されます。
浸透圧性下剤
マグラックス(酸化マグネシウム)
最も一般的に使用される便秘薬の一つです。服用後1~2時間で効果が現れ、安全性が高いため長期使用も可能です。ただし、高齢者や腎機能が低下している方では、高マグネシウム血症に注意が必要です。
モビコール(ポリエチレングリコール)
2018年から保険適用となった浸透圧性下剤です。効果発現までに24~48時間かかりますが、電解質バランスを維持しながら便を軟らかくする特徴があります。2歳以上の小児から高齢者まで幅広く使用でき、大腸内視鏡検査の前処置にも用いられます。
モニラック(ラクツロース)
効果発現に24~48時間程度かかりますが、高アンモニア血症にも効果があるため、肝性脳症の患者さんにも使用されます。また、腸内細菌叢を改善する効果も期待できます。
上皮機能変容薬
アミティーザ(ルビプロストン)
2012年に発売された上皮機能変容薬で、腸管内への水分分泌を促進することで便秘を改善します。24時間以内に約60~75%の患者で自発排便が見られることが特徴です。ただし、妊婦には禁忌であり、若年女性では悪心の副作用に注意が必要です。
リンゼス(リナクロチド)
2017年に発売された上皮機能変容薬で、小腸上皮細胞に作用して腸液分泌を促進します。便秘型過敏性腸症候群にも効果があり、腹痛や腹部不快感の改善が期待できます。服用後数時間で効果が現れるのが特徴ですが、副作用として下痢に注意が必要です。
胆汁酸トランスポーター阻害薬
グーフィス(エロビキシバット)
2018年に発売された胆汁酸トランスポーター阻害薬です。大腸内の胆汁酸量を増加させ、水分分泌と蠕動運動を促進することで便秘を改善します。初回自発排便までの時間の中央値が5.2時間と、比較的早く効果が現れるのが特徴です。食前投与が必要で、副作用として腹痛が起こる可能性があるため注意が必要です。
刺激性下剤
プルゼニド(センノシド)
就寝前に服用し、6~15時間後の翌朝に効果が現れます。即効性がありますが、長期連用で耐性が出現する可能性があるため、頓用での使用が望ましいとされています。
ラキソベロン(ピコスルファートナトリウム)
6~8時間で効果が現れ、液体の剤型もあるため細かい用量調整が可能です。プルゼニド同様、長期連用は避けるべきです。
非薬物療法による便秘症の管理
食事療法
食事内容の改善は便秘症管理の基本です:
- 食物繊維の摂取増加:野菜、果物、全粒穀物などを積極的に摂取します。
- 水分摂取の増加:1日に1.5~2リットルの水分摂取を心がけます。
- 発酵食品の摂取:ヨーグルトなどのプロバイオティクス食品が腸内環境を改善する可能性があります。
運動療法
適度な運動は腸の蠕動運動を促進し、便秘の改善に効果があります:
- ウォーキングや軽いジョギング
- 腹部マッサージ
- ヨガや腹筋運動
生活習慣の改善
- 規則正しい排便習慣の確立:毎日同じ時間に排便を試みます。
- トイレ環境の整備:リラックスして排便できる環境を整えます。
- ストレス管理:ストレスは腸の動きに影響を与えるため、適切な管理が重要です。
その他の方法
- バイオフィードバック療法:直腸肛門機能の協調運動障害による便秘に効果があります。
- 温熱療法:腹部を温めることで腸の血流を改善し、蠕動運動を促進します。
- 排便姿勢の工夫:しゃがみ姿勢に近い姿勢をとることで、排便しやすくなります。
便秘症の予防
便秘症の予防には、上記の非薬物療法を日常生活に取り入れることが重要です。特に以下の点に注意しましょう:
- バランスの取れた食事
- 十分な水分摂取
- 規則正しい生活リズム
- 適度な運動
- ストレス管理
便秘症は生活の質に大きく影響する可能性がありますが、多くの場合、生活習慣の改善によって症状を軽減することができます。しかし、症状が長期間続く場合や、血便、急激な体重減少、激しい腹痛などの症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。便秘が他の深刻な疾患の症状である可能性もあるためです。