皮膚に小さな盛り上がりや硬い部分が現れることはありませんか。このような症状のできものを俗にイボと呼びます。一見同じように見えるイボでも、原因や性質はさまざまです。その中でも特に多い「尋常性疣贅(ウイルス性イボ)」と「脂漏性角化症(老人性イボ)」について、それぞれの特徴や治療法をご紹介します。適切なケアで、症状を改善し快適な生活を送りましょう。
概要
イボは、皮膚にできる小さな隆起や突起状のできものの総称です。代表的なものとして以下の2種類をご紹介します:
- 尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい): 「尋常性」は「普通の」、「疣贅」は「イボ」という意味です。ウイルスが原因のイボであり、「ウイルス性疣贅」とも呼ばれます(正確には、ウイルス性疣贅の中でも代表的なものが尋常性疣贅です)。多くは手足にでき、放置すると数が増えたり、体の他の部位にうつったりします。他の人にうつることもあります。特に小児に多い皮膚病ですが、大人にできることも少なくはありません。
- 脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう): 加齢や紫外線の影響によって発生すると考えられており、感染性はありません。「老人性疣贅」とも呼ばれ、高齢になるとほとんどの方にできます。一方で、できはじめるのは中年世代のことが多いです(早い方では20代でできることもあります)。多くは顔や体幹にできます。
これらのイボは命に関わるようなことはありませんが、まれに皮膚がんの初期と見た目が似ることがあります。そのため、いつもと違うできものができた、数ヶ月程度で急に大きくなった、という場合には確認のために一度皮膚科を受診されることをお勧めします。
また、イボの多くは一度できると短期間で自然と消えることはないので、見た目などの症状が気になる場合には治療をご検討下さい。ウイルス性疣贅の場合には感染させる可能性があるという点でも治療をお勧めします。イボの種類や状況によって、適した治療法が異なるため、医師による正確な診断が重要です。
症状
尋常性疣贅
典型的には、表面がざらざらして硬い、数mmほどの小さなできものです。手足、指先、爪の周囲に特にできやすいですが、皮膚であればほぼ全身にできる可能性があります。特に足の裏にできる場合が多いのですが、この場合は魚の目のように押されて痛むこともあります。(お子さんで魚の目ができたと言って受診される場合は、これのことが多いです)
脂漏性角化症
茶色や黒色の平らに隆起したできもので、表面には光沢があり、時にかさぶたのように見えることがあります。大きさは、数ミリから数センチメートルとさまざまです。できる場所は、顔、次いで体幹が多いです。
数ヶ月程度で急激に増えて、強いかゆみを伴う場合は、内臓のがんを合併している可能性があるとされ、しっかり調べる必要があります(レーザートレラ徴候)。
原因
尋常性疣贅
ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因であることが分かっています。HPVは皮膚の細胞に感染し、皮膚細胞に異常な増殖をさせることでイボを作ります。HPVが原因であるウイルス性のイボとしては、尋常性疣贅のほか、扁平疣贅や尖圭コンジローマといったイボもあります。HPVは様々な病気の原因となることがありますが、それはHPVが様々なタイプのあるウイルスで、そのタイプの違い等で起こす病気が異なるからのようです。例えば、HPVと聞いて子宮頸がんの原因ウイルスと聞いたことのある方もおられるかと思います。子宮頸がんの原因になるHPVと尋常性疣贅の原因になるHPVは異なるため、手足にイボがうつって子宮頸がんになるようなことは原則ありません。
皮膚が弱っていると、その部分の細胞に感染しやすいとされます。アトピー性皮膚炎などがある方は、複数のイボができるなど症状が強くなりやすいです。
脂漏性角化症
加齢や紫外線の影響によって発生すると考えられています。顔など紫外線が当たる部位に通常中年期以降にできる日光黒子(別名:老人性色素斑)というシミを放置していると徐々に盛り上がって、脂漏性角化症になることがあるとされます。ただし、あまり紫外線の当たらない体幹部にできることも珍しくはありません。
診断・検査
尋常性疣贅、脂漏性角化症をはじめとしたイボは、特徴的な見た目や経過から診断します。
細かくて肉眼では分かりにくい場合や、皮膚がんなど他のできものと見分けがつきにくい場合には、ダーモスコピーという拡大鏡を用いたり、皮膚生検と言ってできものの一部または全体を切り取って顕微鏡で確認する検査を行うことがあります。
区別する病気
症状が似ることのある病気には、魚の目・たこ、伝染性軟属腫(水イボ)、扁平疣贅、尖圭コンジローマ、色素性母斑(ほくろ)、表皮母斑・疣状母斑、軟性線維腫・アクロコルドン、マダニ、その他日光角化症や基底細胞がんなどの皮膚腫瘍・皮膚がんがあります。
治療
尋常性疣贅
尋常性疣贅に対しては様々な治療が検討されてきましたが、2025年2月現在最も推奨されている代表的な治療は、液体窒素(冷凍凝固療法)です。これは、患部に液体窒素を浸み込ませた綿棒を当てる治療です(綿棒ではなくスプレーを用いる医療機関もあります)。ウイルスに感染した細胞自体やそこに栄養を送る血管を凍らせて感染細胞を破壊する作用のほか、ウイルスに対する免疫を刺激する可能性があるとされています。1回でイボが消えることはまれで、基本的には1週間から2週間に1回のペースでの通院が望ましいとされます(2週間以上開けると効果が弱くなる可能性があります)。効果には個人差、病変ごとの差が大きいのですが、数ヶ月の治療で消えていくことが多い印象です。ただし、足の裏の深いものや爪の周りのものは治りにくいことが多く、中には年単位で残る場合もあります。3ヶ月程度続けても改善が乏しい場合には、一度他の治療の併用も検討するのが良いでしょう。特に表面が硬く厚くなっている場合には、その部分を削る治療を併用することが多いです。なお、液体窒素治療の副反応・合併症としては、処置に伴う痛み、水ぶくれやきずになり瘢痕が残る可能性、色素沈着などがあります。
液体窒素以外では、サリチル酸ワセリンという塗り薬(市販では貼り薬も)による治療も比較的よく行われます。海外で使われている高濃度のものであれば、液体窒素と同じくらいの有効性があるともされます。しかし、日本国内で流通しているものは比較的濃度が薄いため、液体窒素が使えない場合や液体窒素のみでは改善が乏しい場合の併用治療として使われることが多いです。
次に、ヨクイニンという漢方の飲み薬も使われることがあります。ウイルスに対する免疫を活性化させると考えれられていますが、液体窒素に比べると一般的には有効性が下がるため、やはり液体窒素が使えない場合や液体窒素のみでは改善が乏しい場合の併用療法として使うことが多いです。
他に、手術やレーザー治療、かぶれを起こす作用や感染細胞を壊す作用のある薬などで治療されることもあります。ただし、先に挙げた3つの治療と手術以外は保険が使えないことが多いことが注意点です。基本的には、一般的な治療でなかなか治らない場合や、痛み等の問題で一般的な治療が難しい場合などに検討されます。
脂漏性角化症
尋常性疣贅と同様、保険治療では液体窒素による治療が一般的です。脂漏性角化症の場合には、液体窒素が無効ということはまれで、やればやるだけ厚みが取れて改善することが期待できます。ただし、脂漏性角化症は顔にできることが多く、液体窒素による色素沈着や瘢痕のリスクに注意が必要です。特に薄い脂漏性角化症の場合には、色素沈着によって逆に色が濃くなって目立ってしまうことがありますし、やりすぎると瘢痕が残ってしまうこともあるため、リスクを見極めて適度に治療することが望ましいといえます(ちなみに保険外のCO2レーザー治療でも同じことが言えます)。
液体窒素以外の脂漏性角化症の治療としては、特に皮膚がんなどと区別がつきにくい場合、顕微鏡で確認して診断をはっきりさせることも重要なため、手術で切り取る治療が行われます。通常は局所麻酔(痛み止めの注射)で行います。合併症としては、瘢痕や痛み、出血、麻酔等の薬によるアレルギーなどがありえます。
塗り薬や飲み薬の治療は一般的ではありません。
日常生活上の注意点
尋常性疣贅
尋常性疣贅はウイルスが原因であり、自分の体の別の場所に拡がったり、他の人にうつったりすることもあります。そのため、患部はあまり触っていじったりしないように意識しましょう。また、皮膚が弱っていると感染しやすいため、その予防として保湿などスキンケアも意識しましょう。
脂漏性角化症
紫外線が影響してできる可能性があるため、帽子や日焼け止めの使用など紫外線ケアを行うようにするのが、予防によいと考えられます。
繰り返しになりますが、今回挙げたイボは命に関わるようなものではありませんが、いつもと違うできものができた、数ヶ月程度で急に大きくなった、という場合には万が一にも皮膚がんなどの可能性がないか、診断のために一度皮膚科を受診するようになさってください。そして、見た目などの症状が気になる場合には、治療のに関して相談されるために皮膚科を受診されることをお勧めします。お悩みの方は、お気軽にVERDE CLINIC お茶の水にご相談ください。
VERDE CLINIC お茶の水(ベルデクリニック オチャノミズ) 皮膚科 加藤卓浩
参考
渡辺大輔ほか: 尋常性疣贅診療ガイドライン 2019, 日本皮膚科学会雑誌. 2019; 129(6): 12639-2673.