水虫・爪水虫・たむし(白癬)

白癬(はくせん)は、水虫たむし(特に股・陰部ではいんきんたむし、他の部位ではぜにたむし)などとも呼ばれる皮膚や爪の感染症です。とても頻度の高い病気で、特に足の皮膚に感染した足白癬(いわゆる水虫)は、多い時期には日本人の4人に1人に見られるとも言われます。感染力も強いため、家族や周囲の人に広げないためには早めに治療を受けることが大切です。本記事では、白癬の概要、症状、原因、診断、治療法、そして予防方法について解説します。

目次

概要

白癬は、真菌(カビや酵母の仲間)による皮膚や爪の感染症です。白癬の原因となる真菌にはいくつか種類がありますが、総称して白癬菌と呼びます。白癬菌は、顕微鏡で見ると糸状に見えることが多く、皮膚糸状菌とも呼ばれます。

(厳密には、白癬菌は皮膚糸状菌の一部で、白癬菌以外の皮膚糸状菌もあります)

白癬菌は、ケラチンという蛋白を栄養として生きています。ケラチンは角質とも呼ばれ、皮膚の一番外側の角層や爪、毛の主要成分で、他の部位にはほとんどありません。白癬(水虫・たむし)が皮膚や爪の病気なのはこのためです(ちなみに、毛にも感染することもありますが比較的まれです)。
また、白癬菌は湿度の高い環境を好むため、靴を履く足や体では股など蒸れやすい場所に感染しやすいです。

白癬菌が皮膚で増えると炎症を起こし、皮むけやかゆみ、赤み、小さい水ぶくれなどの症状を起こします。特にかかとでは皮膚が厚くなり、ひび割れを作ることもあります。爪に感染した場合は、その爪が濁って分厚くなります。
しかし、これらの症状は白癬以外の病気でもみられうるため、見た目だけでは診断できないことが一般的です。

症状

足白癬(水虫)、手白癬

白癬で最も典型的な症状は、足の指の間の皮むけです。かゆみもあることが多いですが、かゆみがないことも時々あります。土踏まずなどに小さい水ぶくれができたり、かかとの皮膚が厚くなってひび割れたりすることもあります。また、皮膚の赤みを伴うこともあります。
白癬による細かい傷から細菌が入る蜂窩織炎という病気を合併すると、赤みが足全体から脚の方まで広がり腫れて、熱や痛みを伴うことがあります。

爪白癬(爪水虫)

爪が濁って、厚く変形します。爪がもろくなって、崩れることもあります。
爪が変形することで、足先の踏ん張りが効きにくくなり、歩行に障害をきたすこともあります。

股部白癬(いんきんたむし)、体部白癬(ぜにたむ)

典型的には、かゆみを伴う赤い発疹で、発疹の中心部はあまり症状がなく、発疹の外側のみ環状に赤くなったり、細かい皮むけ(鱗屑)ができたりします。体幹や四肢にできます。

その他

頭皮に感染した場合は、皮膚の赤み、かゆみ、皮むけ(フケ)、脱毛などの症状が出ることがあります。
いずれの部位の感染でも、そこから別の部位に広がる原因となることがあります。

原因

白癬菌

白癬の原因は、概要でお伝えしたように白癬菌というタイプの真菌(カビや酵母の仲間)です。中でもトリコフィトン・ルブルム、トリコフィトン・メンタグロフィテスと呼ばれるタイプが特に多く、これらは主に感染した部位から落ちた垢を介して別の方に感染します。特に共同浴場の足ふきマットや床にはほぼ100%いるとされます。比較的珍しいタイプでは、格闘技などのコンタクトスポーツからの感染が多いタイプや、ペットからの感染が多いタイプがあります。これらのタイプでは、体や頭への感染が多くなります。

環境(湿気、蒸れ)

白癬菌は、湿度の高い環境を好むため、靴を履く足や体では股など蒸れやすい場所に感染しやすいです。特に長靴や作業靴など透湿性の低い靴を履いていると白癬菌が活発化しやすいようです。ところで、水虫、たむしの名前の由来は、田んぼの水の中の虫が原因と考えられていたためという説があります(たむしは田虫からだそうです)。田んぼ仕事は、足をぬかるみにいれたり、長靴を履いたりしますし、足以外も汗や田んぼの水、雨などで濡れて蒸れるので、水虫、たむしになりやすく、このような名前になったんだろうと想像できますね。ちなみに、英語では水虫(足の白癬)をアスリート・フットと言います。アスリートは水虫になりやすいそうです。共用のシャワー室で誰かの足から落ちた白癬菌が足につきやすく、靴は汗や屋外競技では雨に濡れて蒸れやすいことを考えると腑に落ちるように思います。

その他

白癬は感染症であり、免疫力が低下するとかかりやすくなります。糖尿病などの病気の方やステロイド、免疫抑制剤などの薬を使用されている方は、そうでない方と比べるとかかりやすくなります。また、足を軽石で擦る、ゴシゴシ洗うなどの行為も、皮膚に細かいきずができて感染しやすくなるため、注意が必要です。

診断・検査

診断の基本は KOH直接鏡検法

白癬は、症状のある皮膚や爪の一部を取って顕微鏡で確認するKOH直接鏡検法という検査で白癬菌を確認することで診断されることが一般的です。通常、数分で結果の出る簡便な検査です。

その他の検査

KOH直接鏡検法はすぐに評価ができるよい検査ですが、白癬菌の細かい種類までは分かりません。また、爪やかかとの白癬などで、本当は白癬菌がいるのに顕微鏡では確認できない偽陰性になってしまうことが時々あります。そのため、場合によっては、しばらく菌を育ててから白癬菌を確認する培養検査が行われることもあります。
ほかに、インフルエンザ検査のような迅速検査キットもあります(デルマクイック爪白癬®)。ただし、KOH直接鏡検法同様に細かい種類までは分かりませんし、通常の白癬ではKOH直接鏡検法の方がすぐに判定できるため、基本的には一部の医療機関で診断の難しい爪白癬の評価にたまに使われているだけのようです(当院では、2025年1月現在採用しておりません)。

注意点

いずれの検査でも、白癬のお薬を直近で使用されていた患部表面では白癬菌がいなくなって陰性となるのが普通です。そのため、お薬を使っているが治らないという場合、後から調べただけでは白癬が治りきっていないのか、それとも白癬ではない別の病気だったのかの判断は難しいです。皮膚科で「水虫を疑う場合、自己判断で市販薬を使わずにまず受診してほしい」とお伝えすることがあるのはこのためです。といっても、市販薬使用後は何もできないというわけではありませんし、市販薬使用していてなかなか治らない場合こそしっかり診療した方がよい状態ですので、何かあれば気兼ねせずに受診していただくのが良いと思います。

区別する病気

症状が似ることのある病気には、皮膚の白癬では、接触皮膚炎(かぶれ)、汗疱・汗疱状湿疹、その他の湿疹、掌蹠膿疱症、皮膚カンジダ症などがあります。爪の白癬では、爪甲鉤彎症、爪甲異栄養症、扁平苔癬、乾癬などの病気があります。

治療

外用薬(塗り薬)

通常の白癬の治療は、白癬菌をやっつける抗真菌薬の外用薬(塗り薬)を1日1回塗ることが基本です。塗るタイミングは入浴後をお勧めしますが、毎日続けられればいつでも大丈夫です。大切なのは、適切な範囲に適切な量の適切なお薬を適切な期間塗ることです。

足白癬では、両足の裏とゆびの周囲に軽くベタっとする程度の量(大人ならだいたい10日でお薬のチューブを1本使い切る程度)を2-3ヶ月間塗ります。

体の白癬では、発疹の範囲より少し広めの範囲にやはり軽くベタっとする程度の量を1ヶ月ほど塗ります。

爪や毛穴の白癬の場合には、通常のクリームや軟膏タイプの塗り薬は十分に効かないことが多いので、飲み薬が勧められることが一般的です(爪で症状が重くない場合には爪用のマニキュア状の濃い薬もよく使われます)。通常の足の白癬に比べて治りにくい、かかとの皮膚が厚くなるタイプの白癬でも、飲み薬が勧められることがあります。

抗真菌薬の塗り薬の副作用としては、かぶれが起こることが度々あります(特に成分の種類が多い市販薬や、成分が濃い爪用の薬が皮膚に付くとかぶれやすいようです)。炎症が強くかぶれやすい状態では、先に炎症を落ち着かせるステロイドの塗り薬をしばらく使って炎症が多少落ち着いてから、抗真菌薬の塗り薬に切り替えることもあります。なお、治療によってかぶれが起きた場合には、同じ薬を続けることで症状がどんどんひどくなってしまうため、早めに受診されることをお勧めします。

内服薬(飲み薬)

塗り薬では治りにくい、爪や毛穴、かかとの皮膚が厚くなるタイプの白癬の治療では、白癬菌をやっつける抗真菌薬の内服薬(飲み薬)を使うことが一般的です。最近では、1日1回1錠を3ヶ月間(正確には12週間)続けて飲んで、それから3ヶ月程度かけて効果を発揮するタイプの飲み薬(ネイリン®)が爪の白癬治療によく用いられています。

抗真菌薬の飲み薬の重大な副作用としては、まず肝臓の障害に注意する必要があります。そのため、月に1回程度の割合で採血検査を行うことが勧められます。VERDE CLINIC お茶の水では、院内に約10分で結果の出る血液検査機器を採用しているため、月に1回の受診で肝機能採血検査を確認しながら治療することができます。
他に、飲み薬一般の注意点として、お薬に対するアレルギーも重大な副作用となりうるため、お薬を飲んでいる期間に体の広い範囲に発疹が出てきた、または口や目の周りが荒れてきたという場合には、早めに治療中の医療機関にご連絡いただく必要がございます(治療中の医療機関が休診の場合には他院を受診するのもやむを得ませんし、特に発熱や全身の怠さなどを伴う場合には時間外でも救急外来を受診されるのが適当です)。

日常生活上の注意点

白癬の治療の中心はお薬ですが、予防や症状を悪化させないためには、日常生活での患部のケアが大切です。

白癬のケアの基本は、患部や感染しやすい部位を清潔に保つことです。白癬菌が皮膚の表面についてから、皮膚の中に入り込むまでには通常約1日間必要とされています。そのため、1日1回患部や感染しやすい足を洗うことが重要です。その際、軽石などを用いてゴシゴシ洗うような洗い方は皮膚に細かい傷をつけて白癬菌が皮膚に入り込む原因となるため、泡立てた石鹸等で優しくしっかりと洗うことが大切です。また、白癬菌は湿度の高い環境で元気になるため、洗ったあとは水気を拭いて、履物(靴下や靴)はなるべく通気性の良いものを利用するようにして下さい。

爪の白癬では、白癬菌が入って分厚く濁った部分の爪が治療で直接きれいになっていくわけではなく、根元からきれいな爪が伸びて白癬菌の入った部分が押し出されるようにして治っていきます。そのため、爪が伸びたら適宜爪を切っていく必要があります。また、特に塗り薬で治療する場合、爪が分厚すぎると薬の効果が出にくいです。厚くなった爪を薄くするとよいため、表面を定期的にやすりがけなどするとよいとされています。(特に入浴後は多少爪が柔らかくなるため、やすりがけするのに適しています。爪が分厚くて切りにくい場合にも、やすりがけが有効です。)

白癬は再発しやすい病気ですが、正しい治療と適切なケアを続けることで、症状を改善して再発を抑えたり、症状の悪化を防いだりすることができます。お悩みの方は、お気軽にVERDE CLINIC お茶の水にご相談ください。

VERDE CLINIC お茶の水(ベルデクリニック オチャノミズ) 皮膚科 加藤卓浩

参考

望月 隆ほか: 日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン 2019, 日本皮膚科学会雑誌. 2019; 129(13): 2639-2673.

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