GLP-1受容体作動薬を使うと、男性の勃起機能やテストステロンはどう変わるのでしょうか。
2026年4月、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬が男性ホルモンと性機能へ及ぼす影響をまとめたシステマティックレビュー・メタ解析が、医学誌「Andrology」に発表されました。
先に結論を述べると、GLP-1受容体作動薬を使用した研究を統合すると、総テストステロン、遊離テストステロン、勃起機能、性欲の改善がみられました。ただし、対象となった研究は少数で、比較対照のない研究が多く含まれています。GLP-1受容体作動薬が直接これらを改善したという因果関係は証明されていません。
今回紹介する論文
Coronaらは、肥満に伴う男性性腺機能低下症と性機能障害に対するGLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬の影響を調べました。
- 研究デザイン:システマティックレビュー・メタ解析
- 文献検索:Medlineを用いて、2025年8月31日までに発表された研究を検索
- 対象:過体重または肥満の成人男性
- 評価項目:テストステロンなどのホルモン値、勃起機能を含む性機能
- GLP-1受容体作動薬:8研究、375人
- SGLT2阻害薬:3研究、52人
観察研究と無作為化比較試験の両方が対象となり、治療前後の変化、または一部ではテストステロン補充療法との比較が統合されました。
GLP-1の研究に含まれた患者
GLP-1受容体作動薬を評価した8研究には、合計375人が含まれていました。平均年齢は44.7歳、平均BMIは33.9、平均追跡期間は21.6週間で、治療中の平均体重減少は7.3kgでした。
対象となった薬剤は、エキセナチド、リラグルチド、デュラグルチド、セマグルチド、チルゼパチドです。セマグルチドを調べた研究は8研究のうち1件でした。また、チルゼパチドはGIP受容体とGLP-1受容体の両方に作用する薬剤です。
4研究は2型糖尿病患者のみ、1研究は糖尿病患者と糖尿病のない患者の両方、3研究は糖尿病のない患者を対象としていました。メトホルミンや運動療法を併用した研究も含まれています。
テストステロンは上昇
GLP-1受容体作動薬の使用前後を統合すると、総テストステロンと算出遊離テストステロンは有意に上昇しました。性ホルモン結合グロブリン(SHBG)も上昇しています。
チルゼパチドの研究を除外した感度分析でも、総テストステロンは平均2.85nmol/L上昇しており、統計学的に有意でした。
一方、黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)は、全研究を統合した解析では上昇しましたが、チルゼパチドの研究を除外すると有意な変化ではなくなりました。したがって、これらのホルモン変化をGLP-1受容体作動薬に共通する効果と判断することはできません。
勃起機能と性欲は改善
性機能を報告したGLP-1受容体作動薬の研究は5件でした。治療前と比べると、統合解析では勃起機能と性欲が有意に改善しました。
一方、オルガズムと性的満足度には有意な変化がありませんでした。加齢男性症状調査票(AMS)のスコアは改善しています。
テストステロン補充療法と比較した研究では、勃起機能と性欲に有意差はなく、オルガズムと性的満足度はテストステロン補充療法のほうが良好でした。体組成と糖代謝に関する指標は、GLP-1受容体作動薬のほうが良好でした。
改善は体重減少によるもの?
肥満では、テストステロンの低下や勃起機能障害が起こりやすくなります。体重減少や代謝状態の改善だけでも、テストステロンや性機能が改善する可能性があります。
今回の解析では、テストステロンの上昇は、若い患者、治療前のBMIが高い患者、体重減少が大きい研究でより大きくみられました。
筆者らは、別の減量研究との研究間比較から、体重減少だけでは説明できない直接作用の可能性も述べています。ただし、これは同じ試験内で無作為に比較した結果ではありません。筆者ら自身も、GLP-1受容体作動薬の直接作用については探索的な仮説であり、専用の研究による確認が必要としています。
SGLT2阻害薬のデータ
SGLT2阻害薬については3研究、合計52人だけでした。体重、体組成、糖代謝は改善し、勃起機能にも改善がみられましたが、総テストステロンや遊離テストステロン、LH、FSHに有意な変化はありませんでした。
勃起機能を評価したのは2研究、26人に限られます。筆者らは、SGLT2阻害薬について結論を出すにはデータが少なすぎるとしています。
「オゼンピックペニス」を証明した論文ではない
「オゼンピックペニス」は、医学的な診断名ではなく、インターネットやSNSで使われている俗称です。
今回の論文が評価したのは、テストステロンなどの血液検査値と、質問票による勃起機能・性欲などです。陰茎の長さや太さは測定していません。
したがって、この論文から「オゼンピックで陰茎が大きくなる」「陰茎組織が成長する」と結論づけることはできません。また、セマグルチド単独の研究は1件だけであり、結果はGLP-1受容体作動薬など複数の薬剤をまとめたものです。
この研究の限界
- GLP-1受容体作動薬は8研究、375人と対象者が少ない
- 多くは比較対照のない研究で、無作為化比較試験は少ない
- 薬剤、対象患者、併用治療、追跡期間が研究ごとに異なる
- 性機能は主に質問票による主観的な評価だった
- セマグルチド単独の研究は1件だけだった
- チルゼパチドを含めるかどうかで一部のホルモン結果が変わった
- 文献検索はMedlineと英語論文に限定されていた
このため、GLP-1受容体作動薬が男性ホルモンや性機能を直接改善すると断定することはできません。体重減少、血糖や血管機能の改善、心理的な変化などの影響も分けられていません。
まとめ
- 2026年のメタ解析では、GLP-1受容体作動薬の使用後に総テストステロン、遊離テストステロン、勃起機能、性欲の改善がみられた
- オルガズムと性的満足度には有意な変化がなかった
- SGLT2阻害薬では勃起機能の改善がみられたが、対象者が少なく結論は出せない
- 陰茎サイズは測定しておらず、「オゼンピックで陰茎が大きくなる」ことを示す研究ではない
- 対象研究の多くは無対照研究であり、因果関係は証明されていない
今回の結果は、肥満のある男性におけるGLP-1受容体作動薬と男性ホルモン・性機能の関連を示した初期的なエビデンスです。薬剤そのものの作用と減量による影響を区別するには、より大規模で長期間の無作為化比較試験が必要です。
