2025年7月、米国の権威ある医学誌 JAMA Internal Medicine に、GLP-1受容体作動薬を用いた体重管理中の患者に向けた重要な解説記事が掲載されました。
論文タイトルは、
「I Am Taking a GLP-1 Weight-Loss Medication—What Should I Know?」
(GLP-1ダイエット薬を服用している方に知っておいてほしいこと)です。
本記事では、GLP-1製剤を使用して体重管理に取り組む方に向けて、生活習慣のポイントや注意点、安全性についてやさしく解説しています。
1. GLP-1薬とは?その背景と目的
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、もともと2型糖尿病の治療薬として使われてきました。
血糖値を下げる作用だけでなく、食欲を抑える効果や満腹感の持続にも働くことから、近年は肥満治療薬としても注目され、多くの非糖尿病患者にも処方されています。
GLP-1受容体作動薬の代表的な薬剤には次のようなものがあります:
- セマグルチド(例:ウゴービ、オゼンピック)
- リラグルチド(例:サクセンダ)
- チルゼパチド(例:ゼップバウンド、マンジャロ)
2. 薬だけではなく、生活習慣の見直しがカギ
GLP-1薬は体重減少に有効ですが、長期的に成果を出すには日々の食事と運動が非常に重要です。
以下のポイントを参考に、薬と生活習慣の相乗効果を引き出しましょう。
【1】筋肉の維持:タンパク質を意識
GLP-1薬は脂肪だけでなく筋肉も減らすことがあるため、筋肉量を保つ食事と運動がとても重要です。
- 毎食 20〜30gのタンパク質(魚、豆、豆腐、ひよこ豆など)で始めましょう。
- 運動している方は、体重1kgあたり1.0〜1.5gのタンパク質を目安に。
- 食欲が低下しているときは、タンパク質20g以上のプロテインシェイクも活用できます。
【2】エネルギー不足を防ぐ:小分けに栄養補給
食欲が落ちやすいため、少量でも効率的に栄養を摂る工夫が必要です。
- 果物、ナッツひと握り、無糖ヨーグルトなどを間食として取り入れ、エネルギー不足を防ぎましょう。
- 消化のゆっくりな炭水化物(オートミール、サツマイモなど)を中心に。
- 精製炭水化物(白パン、菓子パン)や砂糖入り飲料は控えめに。
- オリーブオイルやアボカドなど、健康的な脂質を食事に加えると満腹感が持続します。
【3】副作用の予防:症状別の食事アドバイス
■ 吐き気や食欲不振
- 揚げ物や加工肉など脂っこい食事は避ける
- 全粒トーストや穀物シリアルがおすすめ
- ショウガ入りのお茶や果物も、吐き気の緩和に有効です
■ 胸やけ
- 食事は一度にたくさん食べず、小分けに
- 食後2〜3時間は横にならない
- 調理法は揚げるよりも焼く・蒸すを選択
- 香辛料(チリ、にんにく、黒こしょう)は控えめに
■ 便秘
- 水溶性食物繊維(オーツ、りんご)と不溶性食物繊維(野菜の皮、ナッツ)を両方摂取
- 水分は多めに摂ることが重要
- 必要があれば、市販の便軟化剤や軽い下剤も検討
【4】水分補給は「意識的に」
- 毎日2~3リットル(8〜12杯程度)の水分を目安に
- スープ、スイカ、きゅうりなど水分の多い食材も活用
- アルコール、カフェイン、加糖飲料はできるだけ控えめに
【5】避けたい食事・習慣
- 極端なカロリー制限はNG:脱水・疲労・栄養失調・腎障害のリスクがあります
- GLP-1薬との併用で過度な体重減少に陥る可能性も
- ヴィーガン食を行う方は、ビタミンB12・鉄・タンパク質不足に要注意
【6】サプリメントは必要?
基本は「栄養バランスの取れた食事」が最も理想的です。
ただし以下に該当する場合は、医師に相談のうえサプリ補充を検討してください。
- 乳製品をほとんど摂らない
- 日光に当たる機会が少ない
- 高度な制限食・吸収障害がある
必要に応じて ビタミンD、カルシウム、マルチビタミンの補給を行います。
【7】運動は3ステップで継続を
GLP-1薬による体重減少と筋肉維持には、運動も大切な要素です。
- まずは1日10分の中強度運動(早歩きなど)からスタート
- 最終的に週150分を目指す
- スクワット・ランジ・バンドなどの筋トレを週2~3回、各30分程度実施
- 毎日30〜60分の運動+週2〜3回の筋トレが理想
【8】リバウンドを防ぐために
GLP-1薬をやめた後でも、体重をキープするには生活習慣の継続が鍵です。
- 毎日60分の運動
- 週2〜3回の筋トレ
- 十分なタンパク質摂取
【9】進捗の「見える化」でモチベーション維持
- スマホアプリや紙のノートで食事内容を記録
- 写真に撮るだけでもOK
- 記録を医療スタッフと共有すれば、サポートも受けやすくなります
GLP-1薬は、食事・運動・生活習慣との組み合わせでこそ、最大限の効果を発揮します。
無理なく、でも着実に。「自分のペース」で続けていける工夫が、健康的な未来につながります。
まとめ
GLP-1製剤による体重管理は、これまで困難だった減量への新たなアプローチです。
ただし、その効果は「薬だけ」では成立しません。
- 食事と運動を中心とした生活習慣
- 副作用への理解と対応
- 服用中止後のリスク対策
- 医療機関との継続的な連携
これらを一体として取り組むことで、はじめて「安全かつ持続可能な減量」が実現できます。
薬はあくまで補助的なツール。
「自分の行動が変わること」こそが、真の体質改善につながる――
この論文はそのことを、改めて私たちに教えてくれます。
📚 出典情報
Miller SJ, Liu A, Aronne LJ.
I Am Taking a GLP-1 Weight-Loss Medication—What Should I Know?
JAMA Intern Med. Published online July 1, 2025.
DOI: 10.1001/jamainternmed.2025.2311
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