GLP-1関連薬による体重減少では、脂肪だけでなく筋肉量や骨密度への影響も関心を集めています。特に高齢者では、転倒や骨折が増えないかという点が重要です。
2026年7月、65歳以上の2型糖尿病患者を対象に、セマグルチドまたはチルゼパチドとDPP-4阻害薬を比較した研究が「Osteoporosis International」に発表されました。
研究では、セマグルチド群とチルゼパチド群のいずれも、DPP-4阻害薬群より1年以内の大腿骨骨折と転倒が少なかったと報告されています。
この研究が調べたこと
研究には、世界各地の医療機関の電子カルテ情報を集めたTriNetXデータベースが用いられました。2018年から2025年に、次の条件を満たした患者が対象です。
- 65歳以上
- 2型糖尿病がある
- BMI 25kg/m²以上
- セマグルチド、チルゼパチド、またはDPP-4阻害薬を使用
セマグルチドはGLP-1受容体作動薬、チルゼパチドはGIP/GLP-1受容体作動薬です。研究では両者を、それぞれDPP-4阻害薬と比較しました。
年齢、性別、BMI、合併症、併用薬、検査値などの背景が近くなるよう、傾向スコアマッチングという統計的な調整が行われました。調整後の対象者は次のとおりです。
- セマグルチド群:27,896人、比較するDPP-4阻害薬群:27,896人
- チルゼパチド群:12,808人、比較するDPP-4阻害薬群:12,808人
主な評価項目は薬剤開始後1年以内の大腿骨骨折で、あわせて転倒も評価されました。
大腿骨骨折はDPP-4阻害薬群より少なかった
| 比較 | 大腿骨骨折の発生率 | ハザード比 |
|---|---|---|
| セマグルチド vs DPP-4阻害薬 | 0.3%(70人) vs 0.5%(145人) | 0.488(95%信頼区間 0.367〜0.649) |
| チルゼパチド vs DPP-4阻害薬 | 0.2%(24人) vs 0.4%(56人) | 0.452(95%信頼区間 0.280〜0.729) |
大腿骨骨折のハザードは、DPP-4阻害薬群と比べて、セマグルチド群で約51%、チルゼパチド群で約55%低いという関連がみられました。
一方、実際の発生率の差は、セマグルチドの比較で0.2ポイント、チルゼパチドの比較でも0.2ポイントでした。筆者らが算出した大腿骨骨折1件を減らすための治療必要数(NNT)は、それぞれ372人と400人です。
転倒もDPP-4阻害薬群より少なかった
| 比較 | 転倒の発生率 | ハザード比 |
|---|---|---|
| セマグルチド vs DPP-4阻害薬 | 3.6% vs 5.4% | 0.663(95%信頼区間 0.612〜0.718) |
| チルゼパチド vs DPP-4阻害薬 | 3.6% vs 5.7% | 0.664(95%信頼区間 0.591〜0.747) |
転倒のハザードは、DPP-4阻害薬群と比べて、セマグルチド群とチルゼパチド群のいずれも約34%低いという関連がみられました。転倒についてのNNTは、セマグルチドで55人、チルゼパチドで48人でした。
「骨粗鬆症を予防する」と示した研究ではない
今回の研究で評価されたのは、電子カルテに記録された大腿骨骨折と転倒です。骨密度検査(DXA)の変化や、骨粗鬆症の新規発症を調べた研究ではありません。
また、比較対象はDPP-4阻害薬であり、薬を使用していない人や、すべての糖尿病治療薬との比較ではありません。対象も、65歳以上で2型糖尿病と過体重または肥満のある患者に限られています。2型糖尿病のない肥満症患者に、そのまま当てはめることはできません。
筆者らも、この結果はGLP-1関連薬が骨粗鬆症治療薬の代わりになることを意味しないと述べています。
研究の限界
この研究は、大規模な実臨床データを用いた後ろ向き観察研究です。背景因子を統計的に調整しても、薬剤の違いが骨折や転倒を減らしたという因果関係を証明することはできません。
- 骨密度、体組成、身体活動、栄養状態、詳しいフレイル評価のデータがない
- 処方記録だけでは、実際の服薬状況、用量、治療期間を十分に確認できない
- 6〜12か月後にも処方が継続していた患者を主解析の対象としており、治療を続けられた人が選ばれる偏りがあり得る
- 追跡期間が1年間で、長期的な骨への影響は分からない
- チルゼパチドの比較では、マッチング後にも一部の背景因子に差が残った
- 骨粗鬆症治療薬の併用を除外した感度分析などは行われていない
補足的な解析でも結果の方向は同じでしたが、効果の大きさは小さくなり、とくにチルゼパチドと大腿骨骨折の関連は弱まりました。筆者らは、より長期間の前向き研究や無作為化試験が必要としています。
まとめ
- 65歳以上の2型糖尿病患者を対象に、セマグルチド・チルゼパチドとDPP-4阻害薬を比較した
- 1年以内の大腿骨骨折と転倒は、セマグルチド群・チルゼパチド群で少なかった
- 評価されたのは大腿骨骨折と転倒であり、骨密度や骨粗鬆症の発症ではない
- 後ろ向き観察研究のため、薬剤が骨折や転倒を減らしたという因果関係は証明されていない
今回の結果だけを根拠に、骨折予防を目的として薬剤を選択・変更することはできません。骨粗鬆症や骨折リスクは、年齢、既往歴、骨密度、栄養状態、身体機能、併用薬などを含めて個別に評価する必要があります。
