セマグルチドを使用すると、「抜け毛が増える」「髪が薄くなる」ことはあるのでしょうか。
肥満症治療で大きく体重が減る一方、脱毛を心配する声も聞かれるようになりました。2026年には、セマグルチドと脱毛の関係を調べた大規模な観察研究やメタ解析が相次いで発表されています。
先に結論を述べると、セマグルチドでは非瘢痕性脱毛が少し増える可能性があります。ただし、永久的に髪が生えなくなることや、セマグルチドが毛根へ直接作用して脱毛を起こすことが証明されたわけではありません。
今回紹介する研究
| 研究 | 主な内容 | 研究の種類 |
|---|---|---|
| Lanehartら・2026年 | セマグルチドなどとメトホルミンを比較 | 後ろ向きコホート研究 |
| Tangら・2026年 | GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬・DPP-4阻害薬を比較 | ターゲット試験エミュレーション |
| Chengら・2026年 | 介入研究9件の結果を統合 | システマティックレビュー・メタ解析 |
| セマグルチド臨床試験 | セマグルチド2.4mgとプラセボの有害事象を比較 | 無作為化比較試験の安全性データ |
1.セマグルチドとメトホルミンを比較した大規模研究
2026年、Lanehartらは、セマグルチドを含むGLP-1関連薬と非瘢痕性脱毛の関係を、電子カルテデータを使って調べました。
セマグルチドを新たに開始した成人と、メトホルミンを開始した成人について、年齢、性別、糖尿病、肥満、喫煙、甲状腺疾患などの背景が近くなるよう、傾向スコアマッチングを行っています。過去に非瘢痕性脱毛や円形脱毛症が記録されていた人は除外されました。
1年以内に新たに非瘢痕性脱毛と診断された割合は、次のとおりでした。
| 非瘢痕性脱毛 | |
|---|---|
| セマグルチド群 | 1,053人/163,839人(0.64%) |
| メトホルミン群 | 750人/166,261人(0.45%) |
相対リスクは1.43(95%信頼区間 1.30〜1.56)で、セマグルチド群ではメトホルミン群より相対的に43%高いという関連がみられました。
一方、実際の発生割合の差は約0.19ポイントです。「43%の人に脱毛が起こる」という意味ではありません。
2.SGLT2阻害薬・DPP-4阻害薬と比較したBMJ研究
2026年7月にBMJへ発表された研究では、米国Penn Medicineの電子カルテを用いて、2型糖尿病患者が新たにGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬を開始した後の脱毛症が比較されました。
実際の診療データから、理想的な無作為化試験に近い条件を再現する「ターゲット試験エミュレーション」という方法が用いられています。
- GLP-1受容体作動薬 vs SGLT2阻害薬:12,004人 vs 15,221人
- GLP-1受容体作動薬 vs DPP-4阻害薬:11,964人 vs 11,238人
| 比較 | 脱毛症の発生率 | ハザード比 |
|---|---|---|
| GLP-1受容体作動薬 vs SGLT2阻害薬 | 6.91 vs 5.04/1,000人年 | 1.37(95%信頼区間 1.08〜1.73) |
| GLP-1受容体作動薬 vs DPP-4阻害薬 | 6.53 vs 3.89/1,000人年 | 1.68(95%信頼区間 1.28〜2.20) |
GLP-1受容体作動薬群では、脱毛症のハザードがSGLT2阻害薬群より37%、DPP-4阻害薬群より68%高いという関連がみられました。ただし、絶対的な発生率はいずれも年間1,000人当たり10人未満でした。
脱毛の種類別では、関連がみられたのは主に非瘢痕性脱毛でした。また、SGLT2阻害薬との比較におけるセマグルチドのサブグループでは、ハザード比1.48(95%信頼区間 1.11〜1.97)でした。
出典:Tang H, et al. Risk of hair loss associated with glucagon-like peptide-1 receptor agonists in adults with type 2 diabetes: target trial emulation. BMJ. 2026;394:e100077.、PubMed
3.介入研究をまとめたメタ解析
Chengらは2026年、GLP-1受容体作動薬と脱毛を調べた介入研究を系統的に検索し、その結果を統合しました。
- 対象研究:9件
- 無作為化比較試験:7件
- 非無作為化介入研究:2件
- GLP-1受容体作動薬の使用者:4,114人
統合解析では、プラセボ群と比べた脱毛の相対リスクは3.25(95%信頼区間 1.44〜7.36)でした。単群解析による脱毛の推定発生率は3.9%です。
過体重または肥満を対象とした無作為化試験だけに限定しても、相対リスクは3.59(95%信頼区間 2.10〜6.12)でした。
この研究は複数の介入研究をまとめている点が強みです。一方、セマグルチドだけの解析ではなく、複数のGLP-1関連薬が含まれます。また、脱毛は各臨床試験の主な評価項目ではなく、発生件数が少ないため、相対リスクの信頼区間には幅があります。
4.セマグルチドの臨床試験では約2.5%
肥満症治療に用いるセマグルチド2.4mgの臨床試験では、脱毛はセマグルチド群の2.5%、プラセボ群の1.0%に報告されました。
製品情報では、脱毛の多くは軽度で、治療を継続しながら回復した患者も多かったとされています。また、体重減少率が20%以上の患者で、より多く報告されました。
これは無作為化比較試験から得られたデータですが、脱毛を主目的として詳細に診断・追跡した試験ではなく、有害事象として集計された結果です。
出典:Wegovy Summary of Product Characteristics、Wilding JPH, et al. Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity. New England Journal of Medicine. 2021.
「43%高い」は「43%の人が抜ける」という意味ではない
研究で示される「43%高い」「68%高い」という数字は、比較群に対する相対的な差です。
例えばLanehartらの研究では、非瘢痕性脱毛はセマグルチド群で0.64%、メトホルミン群で0.45%でした。相対的には43%高いものの、絶対的な差は約0.19ポイントです。
臨床試験やメタ解析を含めて考えると、脱毛は起こり得るものの、大多数の人に起こる副作用ではありません。
薬の直接作用?それとも体重減少の影響?
現時点では、セマグルチドが毛包へ直接作用して脱毛を起こすのか、急速な体重減少や栄養状態の変化を介して起こるのかは分かっていません。
短期間の大きな体重減少、摂取エネルギーや蛋白質の不足、鉄などの栄養素の不足は、毛髪が一斉に休止期へ移る「休止期脱毛」のきっかけになります。今回の研究で主に報告された非瘢痕性脱毛とも矛盾しないため、筆者らは急速な減量を有力な要因の一つとして挙げています。
一方、電子カルテ研究では、体重減少の速度、食事内容、蛋白質や鉄の摂取量などを十分に評価できません。そのため、「薬そのもの」と「薬によって起こった体重・栄養状態の変化」の影響を分けることはできません。
これらの研究から分からないこと
- セマグルチドが毛包へ直接作用しているか
- 体重減少の量と速度がどの程度影響するか
- 蛋白質、鉄、亜鉛などの栄養状態がどの程度関係するか
- 用量を減らすと脱毛が改善するか
- 中止後にどのくらいの期間で回復するか
- どのような人に起こりやすいか
大規模研究はいずれも、通常診療で記録された診断名を使った観察研究です。交絡因子を統計的に調整しても、セマグルチドが脱毛の原因であるという因果関係は証明できません。また、軽い抜け毛で医療機関を受診しなかった人は記録されない可能性があります。
まとめ
- セマグルチドでは、非瘢痕性脱毛が比較群より少し多いという研究結果がある
- セマグルチド2.4mgの臨床試験では、脱毛は2.5%、プラセボでは1.0%だった
- 観察研究では相対リスクの上昇がみられるが、絶対的な発生割合は低い
- 主に報告されているのは非瘢痕性脱毛で、永久的な脱毛が証明されたわけではない
- 薬剤の直接作用と、急速な減量や栄養状態の変化の影響は区別できていない
抜け毛が気になる場合でも、自己判断でセマグルチドを中止したり用量を変更したりせず、処方医へ相談してください。急速な体重減少、食事量、蛋白質や鉄の不足、甲状腺疾患、もともとの男性型・女性型脱毛症など、ほかの原因も含めた評価が必要です。
